ふっとよろめいた姉の体を、咄嗟に少年の細い腕が支えた。
「姉上、少しは休まれないと御身がもちますまい」
休息をすすめる弟の言葉に、大王は首を左右に大きく振った。
「否! こうしている間にも人が死に、子が泣いています。私には民を守らねばならぬ使命がある!」
すでに体は支え無しでは立っていられぬほど衰弱しながらも、口調は女王としての威厳を損なってはいなかった。
「もう少し、もう少しで神の声が聞こえそうなのです」 第一章 第二話 最後の神託 弥生時代、倭人にとっては神託がすべてでした。 大雨が降れば神の怒りを鎮めようとし、日照りが続けば雨乞いをしました。 そんな彼らにとって、神の声を聞くことができる唯一の存在である巫女は、常に政(まつりごと)の中心にありました。 この回では、国と民の命、それらすべての責任を一身に背負っていた巫女の、覚悟と悲哀を感じていただければと思います。