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夢を買いそびれた話 パート2

  • 執筆者の写真: 長緒 鬼無里
    長緒 鬼無里
  • 2015年11月30日
  • 読了時間: 6分

依頼者に無事資料も手渡し、この件について忘れかけていた頃、再び出版社の方から電話をいただきました。

「あれから、改稿の方は進んでいらっしゃいますか?」

「え、え〜っと、そうですね。ぼちぼちとは」

「できたらぜひ、読ませてくださいね。私は歴史ものが好きなので楽しみにしているんです」

「いえ、でも私、普通の主婦ですから、そんなに自由になるお金はありませんし、せっかく読んでいただいてもお願いできないと悪いので」

他の人に頼まれて資料請求したとも言えず、最初はちょっと参ったなあと思いつつ話していたのですが、徐々にスケベ心が芽生えてきました。

「読ませていただかないと、一般販売できるかどうかもわかりませんから。プロの目で見た評価を聞かれてみるだけでも参考になるかと思うんです」

正直、これにはぐらっときました。

確かに、プロの目で見てもらったことなんてないし、その評価は気になる。

「本当に、作れないと思いますが、それでもいいんですか?」

「大丈夫ですよ」

結局欲望には勝てず、後日「ラスト・シャーマン」をメールで送ってしまいました。(恥)

「すぐにはお返事できないかもしれません」

作品を送った時にこのように言われていましたし、やる気のない客の作品など後回しにされるだろうと思っていたのですが、意外に返事は早くきました。

「びっくりしました。長い…いや、確かに長いんですが、長さを感じないくらい面白かったです」

開口一番そう言われて、セールストークだとわかっていても、やはり嬉しくなりますよね。

「社内会議でも、『ぜひ我が社から出版したい』と話しているんです。とりあえず、明日にでも講評と資料を送らせていただきますのでご覧ください」

かくして、翌々日、講評が届きました。

正直それを見て、しっかり読み込まなくては書けないような内容で驚きました。

聞くところによると、この会社に送られてくる作品は月1000作にものぼるとか。

それらを熟読して、それぞれにこれだけの講評を返されているのかと思うと、お仕事とはいえ頭が下がります。

分量としては1500文字くらいでしょうか。

A4用紙2枚に、ぎっちりと書込まれていました。

前半はあらすじやキャラ設定なども詳しく語られ、作者に向けてというより、選定会議の資料のような書き方だなという印象を持ちました。

作品の主軸は月読と壹与にあるとして、それぞれのキャラの性格や見所なども丁寧に分析されており、「読み取って欲しいところをちゃんと汲み上げてくれている」と嬉しく思いました。

基本的にお褒めの言葉が並び(こちらはお客様予備軍ですから当然と言えば当然)、でもそれも、かなり具体的で深い部分まで言及されていて、おだてられているという印象は持ちませんでした。

最後の方には、「緊迫感のある前半に比べると、後半がやや間延びしている点が惜しい。登場人物一人一人にスポットを当てて退場させるのもいいが、読者がもっと読みたいと思うところでの幕引きという方法もある」とか「壹与がちょっと泣き過ぎ。ここぞというところに絞って泣かせたら?」など、改善面も語られていて、なるほどなあと考えさせられました。

そうして読ませていただいていくうちに、最初は「文字数を削られるなんていや!」と頑なだった心にも、「プロが精度を高めてくれたら、どんな風に生まれ変わるんだろう」という期待がちょっぴり芽生えたりもしました。

同梱されていた資料には、ネット販売や新聞広告してくれるのはもちろん、いくつかの書店で平積みしてくれるとか、無名の者からすれば夢のような販促内容が書かれていました。

前回も書きましたが、以前、曲りなりにもマーケティングに関わっていた者からすれば、これを数百万出せば可能だということは凄いシステムだと思うと同時に、涙ぐましい企業努力の結果だと思いました。

よく、この手のビジネスは詐欺紛いなように言われたりしますが、多くは依頼者側の期待が大き過ぎるから起きるトラブルじゃないかなと思います。(事実、悪徳な会社もあるようですが、この会社に限っての私の印象です)

いくらいい作品でも、告知され、書店でお客の目につかなくては存在さえ知ってもらえないのです。

とりあえず、無名作家の作品をそこまで持っていってくれるという点において、私はこちらのビジネススタイルを評価したいと思います。

お店でお客に手にとってもらい、その後売れていくかどうかは作品次第です。

百田尚樹さん著「夢を売る男」というのが、このビジネスに関わる人たちの人間模様を描いたものらしいですが、まさに私たちは「夢を買っている」のだと思うのです。

いい作品が売れるとも限りませんし、時勢が求めるタイミングもあったり、ある意味出版は賭けみたいなものです。

「絶対売れる」と言われて売れなければ文句も言えますが、私が見た限り、そのようなことは書かれていませんでした。

あとは、やはり自分の置かれている経済事情を冷静に見つめて判断する必要があると思います。

「後悔しない」と思えるお金を用意できなくては、手を出してはいけないものだと思うのです。

「お金が返ってくる」とか、「儲かる」という多大な期待を持つと、とても危険です。

私は今回、来年娘の大学進学を控えていますし、自分の趣味のためにそこまで注ぎ込めないと判断しましたので、お断りすることにしました。

でも、もし今手元に自由になるお金があればお願いしていたでしょうし、今後チャンスがあればこの出版社から出版したいと思っています。

でも、とりあえず今は、手の届く範囲の同人本で小さな夢を叶えるつもりです。

このように、出版時期を自分で選べるのも、私のような「作家を目指してはいないけど、自分の本は出したい」と思っている人(他にもいるのかな?)にとってはありがたい点だと思います。

マイペースに好きなように書いて、お金が貯まったら本を出す。

それが私の求める理想の形に近いのかもしれません。

自費出版から人気作家になったことで知られている山田悠介さんが「リアル鬼ごっこ」を出版されたのは20歳の頃だそうです。

それを聞いて最初は「実家がお金持ちだったのかな?」とも思いましたが、調べてみると牛乳配達などで地道にお金を稼いで出版されていたようです。

賞に応募しても、その規模によっては、数千作品の中から選ばれるのは1〜3作品程度。

その陰でどれだけの良作が埋もれているのでしょう。

もしかしたら、落選した作品の中に、ベストセラーになれた作品があったかもしれません。

とりあえず書店に並んで、スタート地点に立ちたい。

そう思う方にとって、自費出版は選択肢のひとつとして意義のあるものだと私は思いますが、みなさんはいかがですか?

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