「見えるか、野猪」
岬を越え、日向国の港のある湾の入り口まで来た時、男鹿が前方を指差して声をかけた。 慌てて彼の指差す方向に野猪が目を向けると、薄暗くなり始めた空のもと、湾の中央に横たわる巨大な島陰が見えた。
今回から、第四章が始まります。 いよいよ月読たちは、狗奴国へ上陸します。 このお話の中では、狗奴国は宮崎県の門川町というあたりにあったと仮定しています。 門川町は、日向灘の門川湾に面していて、湾の中央部には乙島(おとじま)という小さな島があります。 この島は、今は無人島でキャンプなどができるリゾート地のようですが、陸から見て背面には洞窟があり、昔は海賊のアジトとしても使用されていたようです。 実は私は、宮崎県には去年生まれて初めて高千穂に行っただけで、門川町周辺を訪れたことは未だにありません。 このような見知らぬ土地を舞台にする時、私は文明の利器、「グーグルマップ」にお世話になります。 設定を写真にして地図を見れば、「沿岸は岩場が多いんだな」とか、「砂浜は限られた場所にしかないんだな」というその土地の特徴がわかります。 この物語を書き上げた頃は、出雲にも行ったことがなかったので、その時もマップを参考にして書きました。 「徒歩や船でどれくらい時間がかかったのだろう」という時にも、マップから距離を導いて推測したりしました。 そういう意味では、この物語を書いていく中で、私も月読たちと一緒に、日本の各地を旅させてもらいました。
狗奴国といえば、最近は尾張地方にあったとの説が有力視されているようですが、そのことを私は否定しませんし、お話を聞いているとそうなのかなとも思えてきます。 ただ、狗奴国ではなかったにしろ、九州に邪馬台国を脅かす大国はあったのではないかなと思っています。 確か尾張狗奴国説の中でも、邪馬台国は九州を制圧したのちに狗奴国と戦ったと語られていましたが、私も同じように考えています。(というか、尾張に狗奴国があったなら、それは邪馬台国の反対分子がつくった国のような気がしています) 狗奴国ではない「どこかの国」だったとしても、「九州でこのような戦いの物語があったかもしれない」と、古代に思いを馳せていただければ嬉しく思います。
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