壹与が墓の築造現場を訪れると、大勢の男達が木を切り倒して更地を造成していた。 張政の説明では、斧を使って樹木の幹の半分ほどまで切れ込みを入れ、その後、縄を掛けて大勢で反対方向に引き倒すのだという。 そうして更地にした地面の上に土を盛っていくのだ。 逞しい体つきをした男達は互いに声をかけ合いながら、縄を引いたり切り出された丸太を運んだりして皆精力的に動いていた。 第五話 二度目の恋 霊能力を失い、巫女としても大王としても自信を失っていた壹与は、張政に誘われて卑弥呼の墓を造成している現場を訪れます。 この作品の中では、邪馬台国は奈良県の桜井市にあったと仮定していますので、この墓は箸墓古墳をイメージしています。 ただ、これを書いた頃の私は、箸墓古墳を現在のような前方後円墳ではなく、円墳であったとイメージしていました。 なぜなら当時は、「墓」を造るより「山」を造ることに重きをおいていたのではないかと思ったからです。 巨大な建造物を造ることにより、幼い女王の権威を誇示する。 この古墳は、亡くなった卑弥呼のためというより、その後継者の壹与のために造られたと考えたのです。 それがなぜ、現在のような姿になったのかというと、のちに倭国がひとつにまとまった時、その象徴として方墳部分が増築されたのだと想像しました。 円墳が造られていた地域も、方墳が造られていた地域もひとつの国になった。 前方後円墳があるということは、ヤマトに属する証であったと考えたのです。 もちろん、これは私の想像の世界でのことであって、何の確証もありませんし、このことを否定する事実がすでに見つかっているかもしれません。 勝手ながらそこは、フィクションとして笑ってとらえていただければと思います。