「張政から聞きました。本気で今回の職務を受けるつもりですか?」
「はい。唯一この国を護る術ならば」
一晩彼なりに考えた答えに迷いはなかった。
「神に逆らうような行為なのよ?」
壹与は思わず感情的になって声を荒げた。 男鹿は無言で少女の目をまっすぐ見つめていたが、しばらくして穏やかな微笑みを見せた。
「地獄に堕ちるなら堕ちましょう。私はそれでも構いません」 第一話 背徳の決意 今回のお話で、男鹿はある決意をします。 その時のやり取りが上記のものですが、ここにはひとつ、重大な間違いがあります。 それは、「地獄」という言葉を使っていること。 実は「地獄」という概念は、大陸から仏教とともにもたらされたもので、弥生時代にはなかったと考えられるのです。 当時の宗教観を古事記から見てみると、世界は天上、地上、地下の三つに分かれていたとあり、地下が一般的に「黄泉の国」と呼ばれる死後の世界のことを表しています。 「黄泉の国に堕ちるなら堕ちましょう」 というセリフも考えてみましたが、地獄と黄泉の国ではニュアンスが違うような気がしますし、男鹿の決意の重さがいまいち伝わらないように感じました。 ということで、結局、ご指摘を受けることを覚悟の上で「地獄」という言葉を使うことにしました。 この他にも、拙作の中には、金銭のやりとりがあったり、文字が使われているなど、当時にはなかったとされているものがしばしば出てきます。 これらも、私が思い描く独自の弥生世界でのこととして、おおらかな気持ちで受け止めていただければ幸いです。